『「悪所」の民俗誌』を読む
渋谷区松濤(しょうとう)地区に、コンビニはない。
マックもスタバもない。
ここは、商売っ気を微塵も感じさせない歴史ある高級邸宅街。
松濤の南に接続して あるのが、かつての色町 円山(まるやま)。
今はラブホテル街。
書名の「悪所」は、かつての円山のようなところをいう。
著者は社会学者で桃山学院大学で教え、学長も務めた沖浦和光(おきうら かずてる)。
副題は、
『色町・芝居町のトポロジー』
トポロジーとは位相幾何学のことだが、ここでは、〝連続している〟くらいの意味だろう。
こんな喫茶店で読み始め。
著者は、「悪所」の特質を
・匿名性の高い非日常的空間
・新しい文化情報の発信・収集の場
・誰でも出入りできる場
・混沌(カオス)性が増殖していく場
・遊女が理想形となる人倫秩序の転倒した場
・役者が表現する場
と、まとめる。
特に、最後の〝役者〟は、
「漂泊する神人」の影が漂い
表現するのは、
身に潜めた呪力
であると書く。
本夕、読了。
本書、平安の世まで時代をさかのぼる。
当時の記録から、天皇・法皇に寵愛を受けた局(つぼね:宮中に自室を与えられた高位女官)のなかには、出自が遊女の者がいたことを明らかにする。
〝遊女が理想形となる人倫秩序の転倒した場〟が、ここに見える。
悪所といえば、博打場もそうだろう。
が、著者は、博打場についてはひとことも触れていない。
博打が成立するには貨幣が回る世界が必要だが、本書が広げる世界は すでに貨幣経済の時代。
著者、おそらく、競馬・パチンコ・麻雀を知らないヒトなのだと思う。
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