『設計からの発想』を読む
著者は、航空工学者の佐貫亦男(さぬき またお)。
九七式戦闘機(キ27)のプロペラの設計者として有名。
また、気象庁採用の風向風速計を設計したことでも有名。
講談社ブルーバックスシリーズには9冊上梓。
本書は、その内の1冊。
このヒトのプロフィールを、〝工学者〟と同じくらいの比重で〝作家〟と並列して紹介している文章を多く見る。
実際、工学者として高い業績を上げたヒトだが、専門分野の知識をネタにしたエッセーや そのエッセーに埋め込まれたヨーロッパ紀行文やアルプス山行記が実にいい。
こんな喫茶店で読み始め。(注)
表紙絵の、
機首部分は、メッサーシュミット BF109
胴体部分は、スーパーマリン スピットファイア
機尾部分は、零式艦上戦闘機
副題が、『比較設計学のすすめ』。
まァ、そうガチガチした比較論が展開されるわけではないが、日本人が陥りやすい設計(デザイン)のチョンボがいくつも書かれている。
本夕、読了。
著者の佐貫亦男は四半世紀前の1997年に90歳で逝去している。
で、本書の初版は1979年。
米中が国交を樹立した年で、中国では改革・開放政策が始まった直後。
すべての中国成人男子が着ていたのは人民服。
そんな当時、そろそろ日本でも現在の中国を予見していたヒトはいた。
ただし、予見の程度は ウッスラと。
それよりも更に20年も前の、1957年。
国家主席が毛沢東の大陸で、中国の気象科学技術者らと2ヶ月間仕事をした佐貫亦男は、その時に感じたことを、こう ハッキリと書いている。
比較設計学をもっとも深刻に適用する国こそ中国であることを
確信する。
中国人が(他国の)発想を「横取り」するとはとうてい考えら
れない。
この人たちは「学習」するにちがいない。
「横取り」と「学習」は結果こそ同じだが、その態度には大差
があり、獲得と習得の差別となって表わされる。
―――――――< 中 略 >―――――――
その巨大な人口と、柔らかい頭で、成果は期して待つべきであ
ろう。
いくらかの心配は、文明文化の進展とともに頭を持ち上げるか
も知れない中華思想、中国は世界の中心であるとの発想であろ
う。
(注)
こんなところに・・・
って、ところにあった喫茶店。
西日の射すカウンター席に置かれたカップはウェッジウッド。
この喫茶店々主は、ハンドミルで挽いた豆でコーヒーを淹れる。
佐貫亦男なら、豆を挽くその音で、ミルがドイツのコマンダンテだと聞き分けるに違いない。
彼は、毎年のようにドイツを訪れ、かの地の小さな町を歩くのが好きだったという。
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