『帰艦セズ』を読む
著者は吉村昭(1927年-2006年)。
私は、以前に、このヒトの遺稿集を読み、拙ブログに 『死顔』を読む という記事にしている。
『帰艦セズ』の〝艦〟とは、帝国海軍の巡洋艦 阿武隈(あぶくま)。
こんな喫茶店で読み始め。
阿武隈がフィリピンのネグロス島沖で米軍との戦闘のすえに沈没させられたのは、1944年10月。
その2ヶ月前。
小樽港に停泊中の阿武隈から上陸した機関兵が行方不明になり、のち死亡しているのが確認される。
『帰艦セズ』は その史実を下敷きに、創作を上塗りした作品。
著者は、もう一人、軍隊から脱走した経験を持つ人物を創作する。
本夕、読了。
著者が創作した人物は、軍隊を脱走後、北海道でタコ部屋作業員として生き延びる。
戦後は東京都下の市の公務員になり、定年まで勤めあげる。
そして、話の本題はそこから。
阿武隈に帰艦しなかった機関兵の遺族(母親・妹)、機関兵の上官に、定年退職した公務員は たどり着く。
著者に地方公務員に就いた職歴はないが、記録文学者としての自身をこの定年退職した地方公務員に重ねているのは明らか。
描かれているのは、著者自身である。
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