『BCGと人体実験』を読む
帝国陸軍で防疫研究を担っていた731部隊(満州第七三一部隊:石井部隊)に所属していた ひとりの軍医が、帝国敗戦の少し前 出身大学に
博士論文「イヌノミのペスト媒介能力について」
を提出し、医学博士号を授与されている。
その論文中で、ペスト菌を持つノミを付着させることでサルにペストを発症させる実験が論じられている。
そこには、
発症したサルはノミの付着後6から8日にして、頭痛、食欲不振を訴え
という表現や、
ノミ付着後の経過日数-体温推移 グラフの平熱がアカゲザルのもの
より低い36.5℃と記述されている(アカゲザルの平熱は38℃)
ことから、実験に使われたのはサルではなく、ヒトだったのではないか。
また、論文審査報告書に、
イヌノミもまた人類に対する「ペスト」の媒介ノミである新事実を発見し
ている
とあり、ヒトが実験動物として使われていたことを論文審査者も認識していたと思われる。
よってもって、
学位を授与した大学は調査・検証し、その結果いかんでは学位授与を
撤回すべきだ
という趣旨の行動をしている医学者グループがある。
もっとも、博士号を授与された軍医は、学位記を手にする前に戦死している。
こんな喫茶店で読み始め。
著者は、札幌市内の病院に勤める肝臓専門医。
日本学術振興会第8小委員会がまとめ、財団法人結核予防会が1943(昭和18)年に発行した
『結核予防接種に関する報告書』
をたまたま著者は手にする。
で、4953名に対して行った人体実験から、BCGワクチンの接種による結核感染予防効果を導いているのを知る。
文部省付置伝染病研究所、また、冒頭に書いた731部隊では、実験動物の実際はヒトであったのに、
結核はモルモットと
日本脳炎はサルと
鼠経リンパ肉芽腫病(第4性病)はサルと
肺切除はウサギと
カモフラージュされていることまで、25年間の著者の調査範囲は広がる。
著者の言葉をそのまま書けば、
日本の近代医学史に残る実験のほとんどは人体実験であった
と。
私は、歴史書として読んだ。
本夕、読了。
ジェンナーが自分の息子に天然痘を接種し、使用人の息子に牛痘を接種したのも人体実験。
華岡青洲が実母と夫人へ全身麻酔薬を服用させたのも人体実験。
これらは身内かつ自発的というか献身。
人体実験は日本やドイツにおけるものが浮き彫りにされがちだが、数量・人体における深刻度の強弱はあっても、欧米においても国家レベルの主導で何例もなされている。
強制、あるいは未自覚下において行うというのが問題となり、単なるデータ取りにこれをやられては たまったものではない。
コメント
人類がやってきたことは、ウソ偽り過ち大迷惑ばかり。
闇に葬られた事実は、二度と語られることがない。そんな話しが山盛りあるのだろうと思っています。
著者と面識がありますが、
この業界(狭い意味)では著名な人です。
しかし、見た目ぜんぜんそうは見えません。
すぐ死んじゃいそうなのに、何度も蘇ってくる印象です。
人は、見た目に騙されてはいけませんね。
投稿: めりー | 2023年1月29日 (日) 05:17
めりーさん、こんにちは
B型肝炎集団訴訟は、札幌地裁への提訴から始まったんですね。
本著者は、その5名の原告団を率いた方だったということは本書で知りました
。
社会活動においても、集団検診で肝がんを1.3%という高率で発見したことから医学界でも著名な方のようで。
めりーさんも肝臓医療に携わる人ですから、面識があるのですね。
コロナ禍初期の頃、
日本での感染率低さ、死亡者数の少なさを、
日本人のほぼ100%がBCGを接種してい
るからでは
みたいな説があったように記憶していますが、いつの間にか目にも耳にもしなくなりました。
本書には、
日本のBCGの治験は国際舞台ではほとんど
通用しません。
1968年にインド(マドラス)できちんと
ランダムに割りつけて36万人にBCGの治
験を行ったところ、全く効果がないという結
論が出ています。
とあります。
それはそれとして、本書、非常に読みづらいです。
一行一行には、少しも難しい単語も言い回しもありません。
が、本としての構成が悪く、まとまりに大いに欠けます。
文学書ではないので、編集者に預けて構成を考えてもらったら良かったのではと思うほど。
投稿: KON-chan | 2023年1月29日 (日) 11:08