『ハーメルンの笛吹き男』を読む
笛の音でネズミを川へと誘導、町のネズミ被害の悩みを解消させたのが笛吹き男。
ところが、町との間で約束していたネズミ駆除への報酬が支払われなかった。
笛吹き男は、笛の音で今度は子供たちを誘い出す。
笛吹き男と共に姿を消した子供は130人。
副題は『伝説とその世界』だが、130人の子供たちが姿を消したのは〝伝説〟ではない。
〝史実〟。
ドイツのハーメルンにおいて。
1284年6月24日のこと。
大モンゴル帝国が、すでに東ヨーロッパにまで支配圏を広げていた頃。
こんな喫茶店で読み始め。
この表紙に この帯。
なんという品のなさ。
この本、しかし、表紙や帯から連想されるようなクズ本ではない。
ドイツ中世史の専門家の阿部謹也(あべ きんや)が著者。
時間を惜しまず、知力を惜しまず、手書き文書を読み解き、古文書を紐解き、先人の研究に当たりして、抜けのない根拠のある考察が展開される。
本書第1刷目が1988年。
私の購入したのが、昨年7月発行の第34刷目。
30年以上もの間、毎年新しい読者を得ている書。
歴史学者としての阿部謹也の学識の深さ、学問への取り組み方の誠実さ・正統性が高く評価されているゆえだろう。
中世ドイツのみならず、全ヨーロッパの下中層社会の人々の生活が語られる。
本夕、読了。
さて、冒頭に戻る。
最初、笛吹き男は何をしたのかというと、ネズミの駆除だった。
実は、そのことが史料に現れるのは、子供たちの失踪から300年もあとのこと。
そこに歴史の必然さがあったことを知らされる。
〝史実〟は〝事件〟かもしれないが、〝伝説〟は〝歴史〟である(ようだ)。
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