『君がいない夜のごはん』を読む
ソムリエがワインについて語る。
テイスティング・コメント。
朝の森の香りがする。
澄んで冷たい深い湖の近くの森の香りだ。
酸味が柔らかく、わずかに若葉の味がする。
涼しさが口に残り、その涼しさにかすかに青リンゴの味がする。
柑橘系の味・香りは一切ないのに、フルーティな味わいだ。
みたいな、なんだか訳の分からない語りがテイスティング・コメント。
そのヒトの持つ言葉の範囲内でしか表現のしようがないのだから、五感をほかの人に伝えること、中でも〝味〟を言葉で伝えることは大変に難しい。
著者は歌人で、英日翻訳家。
2ページから4ページの短いエッセーが58編。
NHKの『きょうの料理ビギナーズ』のテキストに掲載されていたものだという。
こんな飯屋で読み始め。
著者は正直なヒトなのだと思う。
自分の舌で評価できないことを、言葉にするヒトではないようだ。
言葉をつづることで食っているヒト。
しかし、ソムリエがワインを評価する際に言うような洒落たフレーズは一行も書かれていない。
味覚のこと。
歌人も我々も同じような表現しかできないものだなァ、っと(^^;
本夕、読了。
音に色を感じたり、匂いに色を感じたりする(感じることのできる)ヒトがいるらしい。
ならば、味に色や音を感じるヒトがいてもいいように思う。
食事のテーブルで、
『口に入れると〝薄い赤〟がしばらく続き、そのうちに〝朝モヤの向こうのシラカバの新緑の色〟に変わる』
だとか、
『舌にのせた瞬間〝ギターのCマイナー〟が聞こえ、その2秒後に〝15センチの高さから磨いた大理石の板に落とした500円玉の音〟が聞こえる』
なんてことを隣に座っているヒトが言ったりしたら、なんて素敵なことだろう。
さァ、夕飯だ。
私にはどんな音が聞こえ、どんな色が見えるか・・・(^^)
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