『明治生まれの日本語』を読む
「寝る時刻は?」と、問われれば、
「11時に寝ます」とか 「10時には寝ます」 と答える。
「9時間寝ます」とは、言わないだろう。
「寝る時間は?」と、問われたときも、
「9時間寝ます」とは、言わないだろう。
「11時に寝ます」とか「10時には寝ます」 と答えるはず。
しかし、
「眠る時間は?」と、問われたら、
「11時に寝ます」とか 「10時には寝ます」 とは言わない。
「6時間寝ます」とか「8時間寝ます」と言うだろう。
What time is it now? を、日本語に置き換えたとき、
「今、何時間」とは言わないだろう。
「今、何時」のはず。
こんな飯屋で読み始め。
〝時間〟と〝時刻〟は違う概念。
しかし、What time is it now? を、
「今、何時」 とも 「今の時刻は」 とも 「今の時間は」とも 「今の時間は何時」 とも言える。
日本では〝時刻〟を表すのに、〝時(とき)〟か、〝刻(こく)〟を使っていた。
例えば、五ツ時(いつつどき)とか辰ノ刻(たつのこく)のように。
八ツ時(やつどき)なら、
丑ノ刻(うしのこく:今の午前2時頃)、あるいは 未ノ刻(ひつじのこく:今の午後2時頃)となる。
1872(明治5)年の品川・横浜鉄道開通仮開業時の「鉄道列車出発時刻及賃金表」を、本書で見ることができる。
それに書かれている〝時刻〟の表現は、
横浜発車 午前八字
品川到着 午前八字 三拾五分
〝字〟を使うことで、八ツ時(やつどき)とカン違いさせない配慮がされている。
〝字〟 が 〝時〟 に定着するのは、1903(明治36)年の国定教科書の尋常小学読本発行後。
結構な〝時間〟がかかっている。
なお、午前8時35分30秒 を 中国語では 上午8点35分30秒 と表す。
日本語の〝とき〟の単位の〝秒〟と〝分〟は、中国語からきているのは間違いないだろう。
しかし、〝時(じ )〟は中国語からのものではない。
〝時(じ)〟が明治生まれの日本語であることを本書で知ることができる。
本夕、読了。
江戸から明治になって国を開いた日本に、西欧文化が流れ込む。
その頃の日本人が、たくさんの言葉を作る。
〝she〟が〝彼女〟として定着する過程にも、かなり時間がかかっている。
〝彼女〟も中国語にはない単語。
〝彼〟は〝他〟、〝彼女〟は〝她〟。
ガールフレンドの意味の〝彼女〟なら〝女朋友〟。
ところで、外務省によれば、
United States of America は アメリカ合衆国
United Mexican States は メキシコ合衆国
と表記するのだそう。
中国語でも同じで、
United States of America は 是美利坚(アメリカ)合众国
United Mexican States は 墨西哥(メキシコ)合众国
と書く。(〝众〟は〝衆〟の簡体字)
〝state〟は〝州〟
〝衆(众)〟は〝多くの人〟
の意。
だから、
United States of America は アメリカ合州国
United Mexican States は メキシコ合州国
とすべきだというヒトがいる。
〝合衆国〟が中国語からの借用語なのか、はたまた日本生まれなのか。
本書には、これに関する説明はない。
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