『北の山』を読む
日本で最も伝統のある登山者団体は〝日本山岳会〟。
創立は1905(明治38)年。
その日本山岳会が創立七十周年を記念して大修館から出版したのが、絶版山岳書24巻と資料3巻の復刻版。
七十周年を記念してだから、出版は1975(昭和50)年。(注1)
『北の山』はその中の1巻。
復刻版だから、装丁も当時のまま。
本書は、いわゆるフランス綴じ。
ペーパーナイフを持って読み進む本。
こんな喫茶店で、最初の袋とじを切って読み始め。
著者は伊藤秀五郎。(注2)
著者30歳の1935(昭和10)年に出版されたものの復刻。
当時の販売額は弐圓伍拾銭。
・紀行編
・感想小論随筆編
と組まれていて、大正から昭和の初め、著者が学生時代の山行記録・随筆を主に編まれている。
本書内の言葉を借りれば、まだ〝北海道の登山が若い〟頃の山歩き。
使われなくなった峠道を歩き、廃村寸前の漁村をガケ下に見たりと、今から1世紀近くも前の北海道の風景なのに、すでに廃道・廃村という言葉が見える。
日勝峠の開道はずっと先、北見峠で石北本線も分断されていた頃だ。
〝北海道の登山が若い〟。
著者も若い。
語彙が豊か。
表現が多彩。
しかし、本書内の文章は騒がしくない。
フランス綴じ。
ページを切るには0.4秒か1.3秒か2秒か・・・
3秒はかからない。
4ページごとにやってくる ペーパーナイフを使うための短い読書の中断。
この短い時間に、次のページで見えてくるだろう景色、風、霧、岩に思いがいく。
本夕、読了。
自由に車を使えない時代。
本著者は、駅・停留所に降りて、四里、五里、八里、二十里と歩いて、山の取り付きに近づいてゆく。
〝雨。 いちにち 天幕で暮らす〟
〝ひとりで十日ほど山を歩く〟
うらやましい時間の使い方だ。
一人歩きなら私の常。
自由だが孤独。
本著者も、一人歩きの自由と孤独を書いている。
〝旅〟という言葉が何度か出てくる。
〝旅〟の一文字が明るく、そして重い。
(注1)
今も大修館から出版されている。
ただし、分売はされていないので全巻一式の購入が必要。
(注2)
1905(明治38)年-1976(昭和51)年。
生物学者。
帝大時代の北大の初代山岳部々長。
『北の山』の序文は、1935(昭和10)年1月2日著。
その翌日に米国留学の途についている。
のち、道教育大教授など。
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