« 『楽譜の風景』を読む | トップページ | 冬山を歩く 8 »

2018年1月25日 (木)

『生存者の沈黙』を読む

船体に大きく白地に赤十字が描かれているのは病院船。
船体に大きく緑地に白十字が描かれているのは安導船。(注)

目の前を航行しているのが交戦国船籍の船舶であっても、それが病院船・安導船なら攻撃しない。

 

Awamaru_2こんな喫茶店で、読み始め。

帝国敗戦の年 、'45年のこと。
3月末から4月にかけて、外務省高官・外交官、大東亜省高官、商社員、民間会社技術者及びその家族ら約2千人を乗せて、シンガポールから門司港に向け航海中だったのが安導船の阿波丸(12000トン)。

阿波丸の門司入港予定日は4月4日。
しかし、その前、4月1日の深夜に阿波丸は台湾海峡で米国潜水艦に撃沈される。

スイスを通じて米国に抗議した帝国に対し、7月、米国は自国の潜水艦が安導船の阿波丸を撃沈したことを認め、遺憾の意と遺族への同情の意を表明するとともに、賠償に応じ、当該潜水艦長を処罰する旨を通達する。

以上は、史実。

阿波丸の門司入港予定日の前夜の門司港岩壁。
阿波丸が明日 門司港には現れないだろうと考えている二人が偶然出会う。
出会う二人とは、
単身赴任先から東京への帰任のため阿波丸に乗船している外交官の夫を、東京から出迎えに来た外交官夫人。
それと、阿波丸の帰国の取材のために、やはり東京から出張していた新聞記者。

この二人が、7年にわたり、
・安導船の阿波丸が米国潜水艦に攻撃された理由
・日本政府が賠償請求権を放棄する理由
を、探っていく。

推理小説仕立て。
で、恋愛小説仕立て。

本夕、読了。

本書の題名は『生存者の沈黙』。
副題が『悲劇の緑十字船 阿波丸の遭難』。

本書は、昨年12月発行の初版本。
重版本では、副題が、『悲劇の〝緑〟十字船 阿波丸の遭難』から『悲劇の〝白〟十字船 阿波丸の遭難』に変更されていなければならない。

白十字の内側に緑十字を配した労働安全旗からの連想だと思われるが、安導船標識を〝緑十字〟だと書いてある資料がほとんど。
本書しかり、Wikipediaしかり。

安導権標識は、緑地に白十字。
白地に赤十字を〝赤十字〟と呼ぶのなら、緑地に白十字は〝白十字〟と呼ばなくてはならない。

題名の言う沈黙する生存者とは、阿波丸を撃沈した米国潜水艦が救助した阿波丸のコック長のこと。
阿波丸乗船2千余名中の、ただ一人の生存者である。
これは史実。

(注)
安導船とは、戦争海域でも攻撃を受けることなく航行できる船のこと。
外交官の交換、捕虜・抑留民間人への慰問物資の輸送などを行う。
安全航海できる権利を安導権、権利のあることの証明及び当該船が権利船として守らねばならないことを記した証書が安導券。

守らなければならないこととは、緑地に白十字・寄港地・航路・速力・夜間照明など。

« 『楽譜の風景』を読む | トップページ | 冬山を歩く 8 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 『生存者の沈黙』を読む:

« 『楽譜の風景』を読む | トップページ | 冬山を歩く 8 »