『山釣り』を読む
〝山〟と〝釣り〟のことではない。
〝山での釣り〟
山岳渓流での釣りのこと。
クハ789の2C席で読み始め。
著者は山本素石(やまもと そせき)。
生年:'19(大正 8)年
没年:'88(昭和63)年
収められているのは、釣師が書いた 山での釣りにまつわる長短27編のエッセー。
それらが発表されたのは'75(昭和50)年から晩年近くの'85(昭和60)年にかけてだが、軍隊から復員して間もない頃の回想もある。
文筆のプロだった人が書いた文章ではない。
が、書かれたものには、紋切り型の素人表現などなく、だからと言って奇をてらった表現もない。
自然で流れによどみのない文章は、釣師山本素石が、素人釣師の我々にあてて書いたもの。(注1)
対象魚はアマゴ・ヤマメ・イワナ。
釣法はテンカラ(和式フライフィッシング)。
京都市内に住まいを持った人なので、本書中に出てくるのは近畿地方・中部地方の河川だけかと思いきや、飛騨・北陸・佐渡・津軽・下北も。(注2)
手もとに地図帳を置いて読むべき本だろう。
特に、大和・紀州・美濃での〝山釣り〟の描写が妖しく不思議で印象に残る。
あァ、こんな釣り旅を私もしてみようと思う。(注3)
しっとりとした釣行記であり、紀行文でもある。
読み始めは夜汽車でだった。
それにふさわしい本だった。
本夕、読了。
今朝、絵鞆の展望台から見た噴火湾は白波多数で出航見合わせ。
風は落ちるだろうか。
明日は、〝海釣り〟のつもりなのだが(^^;
(注1)
著者はプロの文筆家ではなかったが、筆力は第一級。
対象読者は釣師だから、難しい文章は一行もない。
しかし、読み終えるには、何度か漢和辞典と国語辞典のお世話になるだろう。
時間を意識しない生き方をした人のようで、〝締め切り〟とか〝忙しい〟という、社会における自身の重要さを表現するイヤらしい単語はひとつも使われていない。
〝人込みを避けて〟などと孤高ぶった単語も出てこない。
絵心のある人で、本書の表紙カバーの装画も著者によるもの。
竹細工のアクセサリーや合板の壁掛けへの絵付けで食っていたようだが、芸風・技巧など、〝稼ぎ〟の匂いのする単語も出てこない。
要するに、山本素石は少しも俗人ではない。
そうだ、釣師は俗人であってはいけない(^o^)
(注2)
日本中のあちらこちらで竿を出した人のようだ。
九州や北海道の川でも竿を出したことがあるらしい。
(注3)
終着駅から、さらにバスに揺られて3時間。
行き着いた先で宿を取る。
川の支流・源流を詰めてテントを張る。
廃村で雨に打たれる。
そんな旅だ。
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