『山行記』を読む
『さんこうき』。
著者は南木佳士。
著者は作家だが、勤め人でもあるので、そう長い休みは取れない。(注)
長くて2泊3日の山行の話。
信州(日本アルプス)の山を歩く話が3編。
「山を下りて」として章だてられた短文をまとめた1編の計4編。
こんな喫茶店で、読み始め。
登山はスポーツに似ているが、スポーツではない。
背負えるザック重量、登れる山の長さ・高さ、歩く時間は筋肉・心肺次第。
しかし、競技ではない。
登山は旅に似ているが、旅ではない。
生活の場から離れ、景色を楽しみ、岩を楽しみ、花を楽しみ、鳥のさえずりを楽しみ、風を楽しみ、雪を楽しみ、雨を楽しみ、お茶を楽しむ。
しかし、離れてきた生活の場と比べるべくもなく、山は不親切で不人情な場、1杯のお茶さえも自分で淹れねばならぬ。
著者は山に登って、
〝からだを開いて無心で歩いていると、世界はおのずから広がってくれる〟
とか、
〝ああ、はじめてこの頂上に立てたときはもっとからだ全体で喜べたのに、との、夢の世界が埋め立てられてゆくがごときかすかな失望感を年々ふかくしている〟
とか、書く。
作家には作家の山行がある。
私は、登っている時も下山後も、何も考えていない。
足裏の岩角、網膜に映る風景、顔面を打つ堅い雪、首筋を射る太陽光線を感じるだけ。
たどり着こうとする頂上・三角点はあっても、また見ようとする風景・聞こうとする風の音はあっても、そこに行き着くこと、それを見、聞くことが私の目的ではない(ような気がする)。
って、私の場合は、ただ歩きたいから歩いているだけ(^^;
オイラにゃオイラの山行がある。
解説は俳優の市毛良枝。
この人の文章が、大変に気持ちいい。
本編は、この人の解説文を読むためのお膳立てかも、と思わせるくらい。
本夕、読了。
(注)
なぎ けいし。
信州の総合病院に勤務する内科医で作家。
この10月で、65歳。
山を歩くのは、50歳から。
本書を読む限りは、ソロ登山や雪山登山をする人ではないようだ。
本書内に書かれているのは、夫婦、病院の職員らとパーティを組んでの山行。
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