『海に生きる人びと』を読む
ヘボは承知。
それでも釣師のつもり。
だから、表題の本を手にした心境は分かってもらえるだろう。
こんな喫茶店で読み始め。
書かれているのは日本のこと。
ややこしい言い回しはない。
薄い本。
が、この本、喫茶店でお茶をすすりながら読み進められるようなレベルのはるか上(^^;(注1)
著者の宮本常一(つねいち)は大学者。(注2)
本書の後書きに、「海に生きる人びとの歴史のごくあらましを見て来た。ほんとにあらましにすぎない」とある。
そして、「もう1冊書き足してもよいと思う」とも続く。
彼の著作集、既刊は51巻。
別集が15巻。
調査は徹底していて、書くことも徹底している。
著作集にまとめられていないものが、まだまだ随分残っているそうだ。(注3)
日本列島を対象とする民俗学者・文献史学者は、定住を基準とするものだ。
と、本書巻末で解説にあたる現役の民俗学・歴史学者の言。
その解説者によれば、宮本常一の思考は定住の対極の移動に基準があるのだとか。
我々が〝遠征〟と称して地元を遠く離れた水域で竿を出すことがあるように、海に生きる人びとは遠い昔から移動し、ある者たちはそこで集落を作り、ある者たちは戻り、ある者たちは さらに移動して行った。
長崎から能登まで、一家で犬猫まで一緒に家船(えぶね)で移動する。(注4)
船で寝泊まりしての移動。
移動先での寝泊まりも船。
かと思えば、その逆、能登から長崎に向かう者たちがいたりする。
和歌山・三重・淡路島・小豆島からも、長崎に出稼ぎ漁に向かう。
5百年以上も前の記録を著者は紹介する。
海に生きる人びととは、生きるための糧を海で得ている人のこと。
海人(あま・かいと・うみんちゅ)。
塩を作る。
ワカメを刈る。
テングサを採る。
潜ってアワビをとる。
マグロを瀬に追い込み突く。
クジラにモリを打つ。
海賊となる。
海人の移動は旅。
本夕、読了。
(注1)
地理に強い人なら、何ということなく読み進められるのだろうが。
地名が2百も出てくる。
海に生きる人びとが住む地域だから、岬や浦に近いところだけかと思えば、海のない信州や近江、丹波・備中の地名も出てくる。
本書に書かれている地名の地図上の位置が分からないと、何も読んでいないこととほとんど同じ。
私の地理の知識では、全然読み進めていけない。
また、義務教育課程で教科書として与えられる程度の地図帳では、歯が立たたない。
平凡社大百科別巻の日本地図帳を持っているが、これでももの足りない。
(注2)
生年、'07(明治40)年。
没年、'81(昭和56)年。
山口県の人だが、職は大阪に求めている。
小・中学校教諭だったが、病弱の人だったようで病気休職を繰り返している。
40歳近くになってから生家の農家を継ぎ、また農業指導に全国を歩いている。
大学で民俗学・文化人類学を教授するのは57歳から。
(注3)
現地を歩く調査は徹底している。
調査フィールドの古老に話を聞くためだろう、民家での宿泊は1000泊になるという。
戦災で調査ノート100冊と原稿1万2千枚を焼失したというが、それでもこれだけの著作を残している。
(注4)
移動・漁・寝起き、生活のいっさいがっさいに使っていたのが家船(えぶね)。
そこで生活する人のことも家船という。
ほんの50年ほど前まで、隅田川河口域、淀川河口域などに浮かべた家船で万を超す人が生活していた。
香港映画には、中華家船がしばしば映る。
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