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2015年11月25日 (水)

『技術大国幻想の終わり』を読む

〝失敗学〟の提唱者の畑村洋太郎氏によるもの。
副題は「これが日本の生きる道」。

機械工学を学んだ後、一時、製造業に身を置いてから大学に戻った人。
各企業に就職した教え子たちとは定期的に会合を持ち、そこからネタを得て書かれたのが『実際の設計』・『続 実際の設計』。
以前にこの2冊も読んだ。
私が素人のせいもあろうが、目からウロコが何十枚も落ちる気分だった。

戦後の50年、日本の復興と成長を自ら〝奇跡〟と呼んだ。
その〝奇跡〟の過程で日本人が持った自国に対する評価は〝技術大国〟。

奇跡の50年のあとの今に続く20年、日本は変わらずに加工貿易国・技術立国ではあるけれども、〝技術大国〟と自己評価するのは過去の成功体験からくる〝幻想〟なのではないか。
奇跡の50年も、それは米国に守られたことで享受できた、朝鮮戦争やベトナム戦争などによる特需からきたタナボタの奇跡だったのではないか。

 

Book_2こんな喫茶店で、読み始め。

'09年、アラブ首長国連邦(UAE)が国際入札で原子力発電所の建設を発注した際、応札したのは仏・日(米連合)・韓の3陣営。
落札は韓国。

韓国が落札した理由を著者が知るのは、'11年、政府から福島原発事故調査委員長を委嘱されたことから。

知ったのは、原子炉内の状況を知る最重要解析プログラムの、その解析モデルを理解している日本人技術者がメーカーにも電力会社にもいなかったということ。
実際にたった今使っているプログラムのモデルを知らないのだから、変動が起きた時の炉内状況の解析ができない。
これでは商売の場に出て、プレゼンのしようがないではないか。

同様の案件のビジネスで過去に米国に負けている韓国は、その後、このプログラムを自国で開発した。(自力で開発できたのかどうかは別として、原発技術者はモデルもパラメータも理解するところに達した。)
加えて、自国内での実績稼働率の高さ。
韓:90%
米:90%
仏:70%
日:60%

韓国が落札できたのは応札額が一番小さかったことが大きな理由で、それはダンピングだろうと考えた日本人が多かった。
しかし、技術的な理由で日本(米連合)には初めから落札の可能性がなかったことを、当の日本の技術者と一部の経産官僚は分かっていたという。

奇跡の50年の終わり頃から幻想の20年の初め頃、日本は答えに向かえば良かった。
が、すでに日本は技術大国ではない。
技術大国であったということ自体が勘違い・幻想だった・・・

現在を含めた幻想の20年、さらにこの先の未来は、向かうべき答えが見えない時代。
それは技術成熟国においても技術新興国においても同条件。

日本人は、韓国(人)や中国(人)の工業技術をパクリ・安かろう悪かろうだと下に見る傾向があるが、パクリ・安かろう悪かろうは我々も通った同じ道。
特需のない時代に成長・拡大していく力は、色メガネなしで評価すべきだろう。

で、さてどうするのか。
という話になって、著者はサムスンが地域専門家制度で海外ニーズを得ていること、iPhoneの筐体が高コストの削り出しで成形してまでデザインにこだわっていること、日産と東風の合弁会社が2000CCクラスの車体に1500CCのエンジンを載せて売れ行きを伸ばしたことなどの具体例を上げる。
〝いいもの〟ではなく、〝欲しいもの〟を売ることだと言う。
海外も含め多くの企業を見、分析してきた著者だから、成功事例は幾つも出てくるが・・・

見えない答えに至るためのプロセスも見えない時代、というか、そのプロセスを見つけることがはるかに難しい。

本書の終わりのほうで、著者は技術者にはスティーブ・ジョブズの〝天才性〟を求め、経営者には〝賭ける〟ことを求める。

ンなことを言われても・・・

〝天才性〟を得る、そして〝賭ける〟に足る根拠を得るに至るプロセスは示されない(^^;

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