『モナ・リザは高脂血症だった』を読む
歴史上の人物の病歴や死因を探るこの手の書は、ほかにも知っている。
また、遺骸・遺骨から死因を探っていく話が書かれた本も随分ある。
新潮新書。
副題は「肖像画29枚のカルテ」。
本書は、〝肖像画〟に限らず、絵画・像・古文書に現れる人物が抱えていた病を探ってゆく趣向。
著者は整形外科医。
作家としても、直木賞候補作を何編か著している人。
医科学知識はもちろんだが、美術・歴史にも広い知識を持っている人だ。
しかし、内科学教授在任18年間での、自らの誤診率が14.2%だったと明らかにした人もいる。(注1)
現実の人間を相手にした専門家でもこの程度の誤診があるのに、問診も触診もできない相手。
写真でさえ真実性が疑われる、ましてや絵や像として表現された形や色に、果たしてどの程度の写実性を認めることができるのか。
さて、診断はいかに。
こんな喫茶店で読み始め。
医師の目とは実に鋭いものだ。
病を解き明かしていく視点・推理は、多角的で科学的。
加えて、専門医からの裏付けを得ている事例が多く、客観性の高い内容となっている。
今夕、読了。
『ヴィーナスの誕生(ボッティチェリ)』には外反母趾と水虫。
『見返り美人(菱川師宣)』には強迫神経症。
『ミロのヴィーナス』は経産婦。 しかも、高年初産婦だったと。
ところで、薬師寺の日光・月光菩薩を脊柱側彎(せきちゅうそくわん)症と診断し、整形外科の権威者からの同意も得ている。
そこに至る著者の診たては、日光菩薩の胸椎が左に、腰椎が右に曲がっている(月光菩薩は日光菩薩と対称的な曲がり)ことを指摘し、その発症が背の高い細身の女性に多いことを裏付けとしている。
私は、しかし、これにはうなずくことができない。
著者が背の高い細身の女性だとした日光菩薩・月光菩薩は、男性なのだから。(注2)
戯れに私も(^^;
映画『釣りバカ日誌』シリーズの佐々木課長や舟木課長は、ハマちゃんに振り回されるたびに太田胃散を飲む。
・胃の不快感はストレスからくるのだろう
・常備薬としているくらいだから、ストレスを受ける頻度は高い
・二人とも血色が良く、体格も良い
・太田胃散を飲む程度のことで快方に向かう
ということならば、胃にそれほど深刻な問題を抱えているわけではないだろうと。
(注1)
『最終講義(実業之日本社刊)』中の、冲中重雄東大教授の最終講義録から。
'46年から'63年まで内科学教授だった彼が、最終講義で発表した値。
CTやMRIのない頃の話なので、この誤診率は優れた数値だったらしい。
(注2)
梵天は男、弁天は女、如来は性別なし。
薬師寺の日光菩薩・月光菩薩は男。
コメント