『なぜ人は砂漠で溺死するのか?』を読む
おおかたのヒトは傷病名が付き、すなわち診療され死因が分かってあの世へと旅立つ。
こうして診療中・後に死亡した時に作られるのが、『死亡診断書』。
そうでない死。
診療されないで迎えた死の際に作られるのが、『死体検案書』。
突然死や、仮に病棟のベッド上であっても、それが無診療・不審死であれば作られるのは『死体検案書』。
死刑による死も、診療された死ではないので、作られるのは『死体検案書』。
『死亡診断書』あるいは『死体検案書』は確かに死んだという証明書で、フォーマットは同一。
この発行がなければ、火葬・埋葬はできない。
こんな喫茶店で読み始め。
今夕、読了。
副題が、〝死体の行動分析学〟。
死に至った過程を死体から探るという意味だろう。
筆者は、年に300体を解剖するという法医学者・監察医。(注1)
阪神・淡路大震災では、『挫滅症候群(クラッシュ・シンドローム)』が死因となった例が多かったというのが教訓的。(注2)
致命傷とはなり得ないはずの手足のケガなのに、診療所に運ばれてから容態急変、急死が続出したという話。
ケガなのに、死に至るプロセスが外科的ではなく内科的。
手足に重量物が乗り筋肉が損傷・壊死すると、筋肉からミオグロビンというタンパク質が染み出て受傷部位に溜まる。(注3)
重量物をどけると血流が回復するので、そのミオグロビンが全身に回る。
腎臓がそれを濾(ろ)過するのだが、その量が腎臓の濾過能力を超えると、死に至るほどの重篤な急性腎不全を発症するのだと。
また、筋肉壊死部からはカリウムが放出され、同様に血流が回復すると高カリウム血症から心室細動を招き急死に至ることがあるとも。
助けるつもりで手足に乗った重量物をどけたことが、実は死なせる手助けをしていたことになるというのが悲劇。(注4)
「人は工夫して死ぬ生き物」という項で始まる『覚悟の自殺の意外な結末』も興味深い、と書いたら不謹慎だろうか。
知恵・知識のある人が自殺を決意すると、ときに大変に頭脳的、トリッキーな方法で死を完結させるという話。
お遊び記事だけを掲載する拙ブログで、これ以上この話に触れるのは、やはり不謹慎だろう・・・
(注1)
傷病の診療に携わる臨床医ではないから、彼は『死亡診断書』を作らない。
作るのは『死体検案書』。
(注2)
そのことが、こんな最近まで知られていなかったというのが悲劇だが、今でも人を助けるつもりがそうなっていないことが多いだろうと思われるので〝教訓的〟と表現した。
(注3)
筋肉中の、酸素を蓄える能力があるタンパク質がミオグロビンで赤色。
長時間無呼吸で水中に潜ることのできる動物は、これを筋肉中に多く含む。
クジラの肉が赤いのは、筋肉中にミオグロビンが多いから。
(注4)
今の救急隊は、駆血帯を巻いて血流を止めてから重量物をどけるとのこと。
その後、挫滅症候群の発症を避けるため、ミオグロビン溶解剤とカリウム排出剤を点滴しながらゆっくりと駆血帯を外して血流を回復させる治療を施すようだ。
コメント
これなかなか面白そうな本ですね。
ちょっと読んでみたくなりました。
投稿: NAKA | 2015年4月22日 (水) 15:41
NAKAさん、こんにちは
↓で記事にした『働かないアリに意義がある』と同じ。
メディアファクトリー新書です。
私の頭のレベルで言うので少しの参考にもなりませんが、『働かないアリに意義がある』は読み進めるのに苦労しましたが、『なぜ人は砂漠で溺死するのか?』では、つまづいたところがひとつもなく最終ページまで進めました。
予備知識は全く必要なし。
素人分かりするように書いてくれています。
素人が分かるところまでで筆を止めた、ということなのかもしれませんが。
似たテーマの本で『死体は語る(上野正彦著)』を読んだこともあります。
法医学者や監察医はとても少ないそうですね。
事故死、病死扱いで処理されてはいますが、実は・・・、ということが結構ありそうです。
投稿: KON-chan | 2015年4月22日 (水) 19:04