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2015年1月22日 (木)

『中立国の戦い』を読む

副題は、『スイス、スウェーデン、スペインの苦難の道標』。

'05年、NF文庫への書き下ろし。
読んだのは、同文庫'14年1月発行の新装版。

第二次世界大戦時に中立国であった国々の内政・外交・軍事史。
スイス・スウェーデン・スペインに多くがさかれ、アイルランド・ポルトガル・トルコ・アルゼンチンについて短く触れられている。
それぞれ書けば、1巻本ずつではおさまり切らないだろう。
それだけ記述の密度は濃い。

上記国の内、トルコ・アルゼンチンは、戦争末期に中立政策を転じて枢軸国に対して宣戦布告し戦勝国となっている。

Bookこんな喫茶店で、読み始め。

中立とは、無関心でも公平でも、ましてや平均や中間でもない。
国体維持の方策・要領。

現在、永世中立を標榜する国家はいくつかあるが、国際的信用を得るに足る歴史・意思の堅さ・体制の確かさを有する国はスイスだけだろう。(注1)
他国からの武力干渉には国民皆兵で抵抗し、いよいよとなれば侵攻国に奪われるものを残さないよう自国内のインフラを破壊する焦土作戦を取る意思が固められている。
叩かれたら歯向かう体力と、死なばもろともの道連れ精神をスイスは養っている。

スイスの中立政策は200年の歴史があり、上に書いたように徹底しているように見えるが、第二次大戦中も後も中立違反を枢軸国側・連合国側双方から指摘・批判された事例が幾つもある。

スイスは、枢軸国のドイツ・イタリア・ドイツに占領されたオーストリア、連合国のフランスの双方の陣営と国境を持つ地勢。(注2)
スイスはゆえに、枢軸国・連合国双方から領空を侵犯されている。
また、スイスは、当時も今も飛び抜けた精密機械製品生産技術を持つ。
その製品は、大戦中もドイツと商取引されていた。(意図を持って制限したら中立国にならない)
そのために、精密機械工場には米軍のB-17から爆弾を落とされているが、米国国務省の発表は、『誤爆』。

ドイツ・ソ連邦と戦場海域のバルト海を介して接しているスウェーデンも、大戦中は中立を表明していた。
当時も今も優秀なボールベアリング製造国のスウェーデンも、ドイツとの取引があった。
そのスウェーデンのベアリング工場もB-17から爆弾を落とされている。
米国国務省の発表は、やはり『誤爆』。
かと思えば、Uボートや仮装巡洋艦に通商妨害されバルト海から出ていけなくなったりしている。

初めの方で、
中立とは、無関心でも公平でも、ましてや平均や中間でもない。
国体維持の方策・要領。
と書いた。
中立国であることを表明することと、戦禍から逃れられるのとは別。
自国はそのつもりでも、周辺の戦時体制国の思いは、まさに戦時思考。
ドイツは保護を名目に、スイスを占領する策まで練っていたようだ。

地中海の出入口はジブラルタル海峡。
最狭部は14キロと津軽海峡より狭い。(注3)
その北は欧州スペイン、南はアフリカ モロッコ。
そのスペインの南端に英国領ジブラルタル、モロッコの北端にスペイン領セウルがある。
青森の大間が北海道籍で、戸井が遠い大都市東京都籍であるようなもの。

スペインはフランコ独裁政治下にあった。(注4)
内戦で疲弊し、大戦に参戦するどころではなく中立しか選択のしようがない。
ドイツ優勢時には枢軸国寄り。
しかし、ドイツの要請があっても英国領ジブラルタルには手を出さなかった。
そして、連合国反攻後は連合国寄り。

戦後の『国際連合』立上げに際して、敗戦国は当然だがスペインも参加を求められなかった。

ご都合主義・勝ち馬に乗る態度を批判できる人は、固い価値観・信念を持っていると言える。
その価値観・信念が、どういう理由で、ご都合主義・勝ち馬に乗る態度に優越するものなのか・・・
などと、私がスペインの弁護をしても何にもならない(^^;

この本では、附録的に記されているだけだが、アイルランドは興味深い。

英国の正式名称は、『グレートブリテン及びアイルランド連合王国』。
アイルランド島の南、アイルランドはアイルランド共和国。
連合王国の一員ではない。
このアイルランド共和国の、歴史的な英国憎しからくる大戦時の中立意思が筋金入り。

中立国の、〝寄らば切るゾ〟は分かる(ような気がする)。
〝切る〟実力がない時、〝死なばもろとも・道連れ〟を、時の指導者が下命できるものなのかどうか。
下命でき、それが成されたとして、それが最善策・良策なのか。
事態が現実に起こる以前の言いようと、事態が現実に起きた以降の言いようは同じでないことが普通だろう。
最悪から逃れる次悪策(という言葉があるとすれば)の連邦国、属国、植民国、保護国となってもみたいなことが・・・と思ったりもする。

私が思うくらいだ。
その歴史は多い。

(注1)
オーストリアも永世中立国。
ドイツへの併合から連合軍に解放されたオーストリアは、永世中立を〝条件〟に独立を認められたという背景がある。

(注2)
フランスは早々にドイツに占領されたので、スイスは事実上ドイツに取り囲まれていたようなもの。

(注3)

映画『Uボート』のラスト近くは、イタリアの基地に入るシーン。
潮流に乗って、ジブラルタル海峡を大西洋から地中海へと運だけを頼りの通峡。
ドイツはジブラルタル海峡航路確保のために、スペインが英国領ジブラルタルを制圧することを望んだ。
当時のスペインの国勢に、そのような力はなかった。

(注4)
民主主義が最善の体制なのか。
独裁政権に対して、民主主義が優等だと言う人は多い。
一方で、リーダーシップ、それも強いリーダーシップを求める人も多い。
このあたりを考察するのは面白そうだ。
面白そうだが、それを書くのは拙ブログの芸風と合わぬ(^^;

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コメント

そうなんですか、面白いですね。
愚生の乏しいながら知っているアイルランドはいろんな意味で室蘭に似ております。

異なる点は、知人の多くは頬を赤くして、丸顔、短い首を持つ半禿、安酒を・・・と

話せば、とぼけた下ネタありの痴人ばかり・・・類友と・・・

投稿: 349 | 2015年1月25日 (日) 23:39

与作さん、こんにちは

太平洋戦争初頭のマレー沖海戦で、戦艦プリンス・オブ・ウェールズと巡洋艦レパルスが日本海軍機により沈められた時のアイルランド国内紙記事は喜び口調だったと。
スコットランドのUKからの独立騒動もついこの間のことでした。
イングランドがウェールズ・アイルランド・スコットランドを併合してUKを成立させてますから、会津と長州みたいなこともあるんでしょう。
英国史は面白そうです。

アイリッシュ・ウイスキーは、whiskeyとeが入りますね。

投稿: KON-chan | 2015年1月26日 (月) 03:10

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