倉橋由美子に寄せて
作家の倉橋由美子が10日に死去したとのこと。
高校生の頃、ガールフレンド(ガールフレンド! あゝ、何て懐かしい響きだろう。ボクにも、振り返るだけで口の中に梅干を放り込んだようになる、純で、青くて、酸っぱい過去があるのだ)が、『読んでみたら』と、倉橋由美子の〝パルタイ〟をボクにくれた。
その本は今でもボクの本棚に納まっている。
あれからもう30年余が過ぎた。
その後、1975年の秋から刊行が始まった〝倉橋由美子全作品集〟を出版のたびに買い求め、翌年の初夏に全8巻が本棚に並び終えた頃、二人の仲は〝ボクたち〟から〝ボクだけ〟になっていた。
この全集以降に出版された倉橋由美子の作品をボクは読んでいない・・・
それから何年もたったある日、本当に全く何の前ぶれもなく彼女から電話が来た。
彼女は結婚し、専業主婦になり子供を育てる日々を過ごし、今は夫の赴任先のK市に住んでいるという。
ボクには語るに足るだけの自分の近況もなく、ただただ彼女の話だけを聞いていた。
電話の向こうで、そのうち彼女が現在の身の上の不幸を告白して泣き出すのではないかという事を、若かったボクは期待しながら。
が、彼女は最後まで明るく話し、電話を切った。
いつもそうだったように『じゃァ』と言って。
ところで、倉橋由美子の作品は作品そのものより、作品の後書きの方がズッと面白いと私は思う。
彼女の後書きには、作品を作った後の達成感の表明などなく、釣行から帰港したKON-chan号から降りた私の口振りによく似ている。
作家と同じく、釣り人も釣行後にはたいてい、照れが混じった自慢かさりげなさを装った言い訳と負け惜しみを語るものだ。
コメント
場っていうか空気っていうか雰囲気っていうか大袈裟にいうと時代っていうか、その渦中にいると分らないんだけれどもねえ。
でも、その時、その時はオレら自然体だったとは思うんだよね。振り返ると、赤面ものだけどね。
投稿: coo | 2005年6月15日 (水) 07:49
cooさん、先日はどうもありがとうございます。
また東京の空の下にいるのでしょうか?
私の方も相変わらず旅仕事が多くて、落ちつきません。
これから北陸と九州を回ってきます。
都合で東京は羽田を乗継地とするだけですので、今回はお会いできません。
あの時のように、どこかでバッタリ出会うようなことがありましたら、少年のように語り合いましょう。
投稿: KON-chan | 2005年6月15日 (水) 12:25