濃霧注意報発令中
この時期はガスがひどい。
昨日も、一日中、濃霧注意報が発令され、マリーナからは大黒島も、白鳥大橋も、風力発電の風車のプロペラどころか塔さえも見えなくなった。
太陽の位置さえ分らなくなるガスの中で海上にいるのは、たとえコンパスやGPSを装備していたとしても、気持ちのいいものではない。
いつ、どこから他船が不意に現われるか分らないというのが気持ちの悪さの一番の原因で、次が、コンパスやGPSの表示と自分の方向感覚がいつの間にか食い違ってきて、どうにも変な気分になること。
〝空間識失調〟と言うらしい。
以前、暗くなった上、ガスが濃くなってからの帰港時、最後の防波堤の突端の灯標の点滅がどうしても見つけられなくなったことがあった。
サーチライトを点灯させても、ただただ乳白色のガスが明るく見えるだけで目印となるものは見えない。
船溜りの水銀灯の明りも分らない。
が、GPSの表示を信じるならば、直線距離ならその水銀灯の真下まで0.2マイルもないはずで、21フィートの先代KON-chan号の60艇身長くらいの距離。
そしてその前に、ガスに沈む防波堤がある。
夜、霧、港・・・
これが裕次郎ならマドロス帽をあみだにかぶり、短くなったタバコを親指と人差し指でつまんでフッーと煙を吐き出すところだ。
そして、この霧の向こうに、このシチュエーションにあとひとつ足りない登場人物、つまりキレイなネェーちゃんが立っているはず・・・
最初は、私も、夜、霧、港に自分がいるもんだからそんな気分に酔っていた。
ほんの100秒くらいの間は。
が、本船航路から外れたのは確かだから、もう他船の動向は気にしなくてもいいという安堵感と裏腹に、GPSの表示と自分の距離感覚、方向感覚が合わないという症状に襲われだした。
自分の感覚が正しくて、GPSは間違った表示をしているのではないかという気がしてしようがない。
いったん疑い出すとどうしてもGPSの表示が信じられなくなる。
そう、この時、空間識失調を起こしていたのだと思う。
それでも、ガスが立ちこめているくらいだから風はなく波もないので、ガスが晴れるまで待とうと、アンカーを入れようと考えるだけの冷静さはあった。
アンカーを入れようとしたその時、灯標が光った。
この光を左手側にかわせば、船溜りに入れる。
で、船を前進させ防波堤をかわすつもりだった・・・
と、無意識にフルアスターンをかける自分がいた。
灯標だと思ったのは、夜釣りの人のキャップランプの光で、防波堤はGPSの表示通りまだ右手側まで続いていて、KON-chan号の鼻先寸前に防波堤の岸壁があった・・・
夜釣りの人のキャップランプが下を向き、海上から見上げる格好になった私の目にその光線がたまたまガスの薄いところを通過してしてきたに違いない。
夜釣りの人が声を出すか何かしたのがきっかけだと思うが、どうしてあんなきわどいところでアスターンをかけられたのか、全く記憶にない。
とにもかくにも桟橋に船を着けることができた。
もちろん、キレイなネェーちゃんが待っているわけがなく、体中が何だか湿っているのも夜霧のせいだけではなかった。
裕次郎なら皮ジャンを肩にして口笛を吹くところかもしれないが、私は、首に巻いた手ぬぐいで曇ったメガネを拭き、何だか随分高音のため息を吐いたのを覚えている。
多分、前後進切替に操作手順がふたつ多いクラッチ・アクセル2本レバー式の、そして鼻先の長くなった今のKON-chan号だったら間違いなく岸壁にぶつけていたと思う。
昨日も空間識失調におちいった気分。
魚のいるところが、全然見つけられない・・・
コメント