読書

2023年9月24日 (日)

『家裁調査官は見た』を読む

日本の法曹人口の概数は、
 弁護士が3万人強
 裁判官が2千8百人弱(注)

裁判を維持するのに必要な調査を行うなどして裁判官をサポートする仕事を行うのが、裁判所調査官。
 ・最高裁判所では、判事(地方裁判所裁判官)が就く
 ・高等および地方裁判所では、知的財産の専門家と租税の専門家が就く
以上の調査官が法律家なのに対し、
 ・家庭裁判所(以下、家裁)では、カウンセラー(臨床心理士・家族心理士
  など)が就く

いずれの裁判所の調査官も、国家公務員。

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こんな飯屋で読み始め。

本著者は、社会福祉学部教授として学生を指導しているが、家裁調査官として17年間の勤務経験を持つ。
家裁が扱うのは、家庭に関する調停や少年の保護事件の審判など。
だから、家裁調査官は、家庭、家族、少年少女、その親たちに深く立ち入ることになる。

本夕、読了。

家裁調査官が大事にすることは〝聞くこと〟だ。
と、本著者。
が、そのことだけではヒトは救えないことを〝苦い思い〟として本著者は書く。

覚せい剤を使った17歳の少女が、著者にこう訴える。
「チャンスが欲しい。(少年院ではなく)社会で立ち直りたい」

で、著者の裁判官への意見具申は、
「この子を少年院に送るのは適当ではない。
 適切な環境を整えて社会の中で更生をはかるのが最善である」

その1ヶ月後、変わり果てたように目はくぼみ肌の潤いを失った少女が言う。
「ヤクザっていうのはすごいよ。
 シャブやってる女の子がいるって聞いたら、そこへサーっと集まって来るん
 だよ。 本当にすごいよ」
と。
ヤクザに連れ回され、1日に7回も覚せい剤をうたれ そのたびに性交。

女子少年院に送られることで、少女は やっと適切な環境を得る。

(注)
検事はもっと少なく、2千人弱。

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2023年9月23日 (土)

『いろは俳句絵本』を読む

〝多芸は無芸〟といい、〝天は二物を与えず〟ともいう。
いや いや いや。
多芸有芸・多芸多才、天から二物どころか三物も四物も与えられたヒトはいる。
著者はそんなヒト。

著者の本職はナンなのか。
 一級建築士
 折り紙講師
 タップダンス講師
 茶道(大和遠州流)教授
 墨戯(水墨画)講師
で、陶芸家で俳人。

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こんな飯屋で読み始め。

〝い〟をアタマに
〝ろ〟をアタマに
〝は〟をアタマに
というふうに、一ページに一句。
いろは順に俳句が並べられている。

本書は、本。
も著者による。

器用なヒト。
というには、レベルが高い。

本夕、読了。

俳句だから季語がある。
札幌在住のせいか、使っている季語に多いのは〝冬〟。
〝秋〟は少なく三句のみ。
うち一句のアタマは〝ゆ〟。
 指先の
 トンボ一会(いちえ)の
 空へ発(た)つ

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2023年9月18日 (月)

『あなたの中の異常心理』を読む

著者は精神科医。
本書には、
 〝臨床医として現代人の心の危機に向かい合う〟
と、紹介されている。

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こんな喫茶店で読み始め。

著者が、
 〝現代人の心の危機に向かい合っている〟
ことはよくわかる。
〝心の危機〟とは、〝異常心理〟のこと。

もし、
 〝異常心理〟は回避しなければならない
また、ひとたび身に付いた
 〝異常心理〟は克服しなければならない
のであれば、その
 回避法(予防法)
 克服法(療養法)
が述べられてしかるべき。
が、本書に書かれているのは、〝異常心理〟の実例(分析)ばかり。
回避法・克服法は書かれていない。

本夕、読了。

本書の論調には大いに異議あり。

表面に行動として現れて、人間関係にトラブルを発生させる〝異常行為〟ならともかく、内面に隠れて 当人のみが知る〝異常心理〟をどうしろと。
そもそもが、心理に〝異常〟とか〝正常〟とかあるのだろうか。

ウラ・オモテのないヒト
カゲ・ヒナタのないヒト
見せられない 胸の内 のないヒト

ンなヒトの心理を〝正常〟と評価してよいものだろうか。
〝無害〟
とは言えるが。

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2023年9月10日 (日)

『大人のための「中学受験の算数」』を読む

著者は、物理学と指揮を学んだ理芸両道のヒト。
現在は、数学塾の主宰者。

本書で扱っているのは、小学6年生が中学入学のために臨む試験問題。
なので、数学の本ではなく算数の本。

掲載されている算数は24題。

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こんな喫茶店で読み始め。

中学入試の出題だから、小学校6年間で習う範囲を越えない。
が、中学卒業者、高校卒業者。
どころか大学卒業者でも、さらには解答時間を5倍に延長されたとしても、満点はおろか合格水準レベルにまで到達できるだろうか。

本書名、
 『大人のための「中学受験の算数」』
副題は、
 問題解決力を最速で身につける
そして、帯には、
 難関中の入試問題は、最高の教材だ!
とある。

これから中学に入ろうとする小学校6年生の問題解決力が、大人の頭の使い方の薄さを気付かせる。

本夕、読了。

本書によれば、〝難関中〟入学を目指す小学生の多くは、3年生の2月には入塾すると。
といっても、塾で文字式や方程式など、中学校で習う学習範囲の教授なんぞはしない。
塾で扱うのは、あくまでも小学校6年間の学習範囲内。
本書で教えられるのは、10の発想法・考え方。 その10とは、
 ①逆を考える
 ②情報を図や表にする(視覚化)
 ③差や比を考える(相対化)
    ・
    ・
 ⑧対称性を使う
 ⑨言い換える
 ⑩評価する

次は、ある中学校の入試問題。
Nada
図1で、
 入射角イと反射角アは等しい
と、鏡と光の関係が説明される。
 
図2で、3辺が鏡で構成された三角形ABCと、その内部を反射しながら繰り返し同じ経路を進む光の様子が示される。

そして、
 角ウを求めよ。
なんて、問題文には書いていない。
中学の入試問題、解くのは小学6年生。
問題文に書かれているのは、
 角ウの大きさは何度ですか。

⑧の、対称性を使って考えると、
 角ウの大きさは 28°

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2023年9月 6日 (水)

『美しすぎる「数」の世界』を読む

副題は、
 「金子みすゞの詩」で語る数論(注1)

著者は数学者。
〝数の新しい世界を知ることで、目の前が開けていく感じ〟
と、
〝金子みすゞの詩が気付かせてくれる、身のまわりの世界
 の不思議〟
に共通するものを感じると言う。

30編の金子みすゞの詩に、数論を重ねていく。

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こんな喫茶店で読み始め。

金子みすゞの詩の〝そらの いろ〟

 うみは、うみは、なぜ あおい
 それは おそらが うつるから。
   < 中 略 >
 だけど おひるの おひさまは、
 あおかないのに、なぜ あおい。
 
 そらは、そらは、なぜ あおい。

に重ねて、2次式と素数が語られる。(注2)

本夕、読了。

以下、本書の記述に従って。
ここでいう 2次式 とは 
 f(x)=x
2x+A
という形。
ここで、
 A=2,3,5,11,17,41
とすると、
x=0 から A-2 までの A-1個の連続する X の値ですべて素数値をとる。
たとえば、
 A=17
のときは、
 f(x)=2x+17
とおいて、
 f(0)=  17
 f(1)=  19
 f(2)=  23
 f(3)=  29
 f(4)=  37
 f(5)=  47
 f(6)=  59
 f(7)=  73
 f(8)=  89
 f(9)= 107
 f(10)=127
 f(11)=149
 f(12)=173
 f(13)=199
 f(14)=227
 f(15)=257
と、確かに素数が並ぶ。

 A=2,3,5,11,17,41
の その先は・・・
わかっていない。
本書には、ほかにも素数を生成する2次式が紹介される。
そして、著者は こう書く。
〝2次式の素数の問題を通して、限りなく深い世界が
 広がっているのを見ることができる〟

もっとも、私の理解力では、〝限りなく深い世界が広がっている〟のを見ることができたとは とても言えない。
しかし、〝限りなく深い世界が広がっている〟のを感じることはできた・・・
ような気がする(^^;

(注1)
〝数論〟とは、
 整数(・・・,ー3,ー2,ー1,0,1,2,3,・・・)
について研究する数学の分野。

(注2)
〝素数〟とは、
 ・2 以上の自然数
 ・正の約数が 1 と自分自身のみ
な数で、無限に存在する。
2 3 5 7 ・・・ 89 97 101 ・・・ 983 991 997 ・・・

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2023年9月 3日 (日)

『加害者家族』を読む

以前、新聞で読んだ記事。
車庫出し前進時、祖父が幼い孫をひき殺してしまう。
車庫入れ後退時、母親が幼い我が子をひき殺してしまう。
いずれも過失・事故。
ひかれたほうの孫・子は害者だが、ひいたほうの祖父・母を害者とは言いづらい。

不幸。
救いようのない不幸だが、責めるべき対象は自分自身のみ。
細く暗いが 歩むべき贖の道が見えないこともない。
そもそも、〝〟ではない。
ように思う・・・

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こんな喫茶店で読み始め。

本書で扱っているのは、そんな意図しない過失・事故の話ではなく、故意の殺人。
殺されたほうには、ひとかけらの落ち度もない。

殺されたほうは害者、その家族は害者家族。
殺したほうは害者、その家族は害者家族。

害者家族は もちろん不幸。
が、害者家族にも大きな不幸が襲う。

著者はNHKの報道番組ディレクター。
書かれていることは著者自身の取材による。

害者は 小学生5人(注)
内、2人死亡
害者は、14歳、中学3年生
害者家族宅の構成は、父・母・害者・弟が2人

本夕、読了。

警察は害者家族宅に起こるだろう不幸についても配慮する。
で、家宅捜索令状呈示の その前に、2人の弟を親戚宅に避難させることを提案・協力する。

それからの日々。
父親は苦しむ。
 弟たちはどうなるのか。
 誰が遺族に詫びに行くのか。
 捨てきれない 何かの間違いであって欲しいという思い。
 
そんな父親に担当警察官は同情を示しながら、
 「あなたたち家族への厳しいマスコミ報道、連日の調書取りなど
  で、つらく苦しい気持ちはわかります」
そして、こう質問する。
 「お父さん、2月10日と3月16日に殺された被害者の名前を
  ご存知ですか?」

父親は、被害者たちの名前を知らずにいたことを指摘され愕然とする。
そして、自分たちは、害者家族としての苦痛を決して口にしてはいけないことを知る・・・

(注)
1997年の神戸連続児童殺傷事件。
いわゆる、酒鬼薔薇聖斗(さかきばら せいと)事件のこと。

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2023年9月 2日 (土)

『職人』を読む

著者は永六輔。
著者が聞いた 職人の語りの数々が並べられている。
そのひとつは、
 残らない職人の仕事ってものもあるんですよ。
 えェ、私の仕事は一つも残ってません。
 着物のしみ抜きをやってます。 着物のしみをきれいに
 抜いて、仕事の跡が残らないようにしなきゃ、私の仕事
 になりません。

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こんな飯屋で読み始め。

人間国宝のおばァちゃんが織った紬(つむぎ:絹織物)。
それと、東レ・旭化成が織った化繊の紬の違いの判別はむずかしい。
人間国宝のおばァちゃんや沢村貞子が着れば、
 「これ、ヘンだなァ」
と思えるくらい。
らしいのだと、著者。

フライフィッシャーはバンブーロッドを手にしたがる。
釣竿職人の使う素材は竹。
が、敏感、折れないのはグラスファイバーの竿。
と、著者。

本夕、読了。

著者の大ベストセラーは『大往生』。
ところで、1997年、NHKTVドラマの『大往生』。
主演の森繁久彌が演じた役は 残らない仕事をする〝しみ抜き職人〟。

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2023年8月27日 (日)

『カラスはずる賢い、ハトは頭が悪い、サメは狂暴、イルカは温厚って本当か?』を読む

題名には、
 カラスはずる賢い
 ハトは頭が悪い
 サメは狂暴
 イルカは温厚
とあるが、
 カラスがずる賢い話も
 ハトは頭が悪い話も
 サメが狂暴な話も
 イルカが温厚な話も
出てこない。

ヒトはカラスを嫌い、カモメを好む。
だから、
 カラスは追い払われ
 カモメはエサをもらえる
著者は、そんなことに理不尽さを感じながら研究活動を続けている動物行動学者。
専門は鳥類。

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こんな飯屋で読み始め。

動物を見るさいに著者が我々に望むのは、〝事実に基づく、ニュートラルさ〟。
で、書かれているのは、動物の実際の行動と そのニュートラルな解釈・理解。

本夕、読了。

鳥は、前足を犠牲にして翼にした。
コウモリは、前足だけでは足りずに、後足・尾まで連なった皮膜を張って翼とした。

著者は、こう書く。
その結果は、どうなったか。
哺乳類は4300種。
内、一番多いのがネズミ目で1400種。
次が翼手目(コウモリ)で、1000種。

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2023年8月22日 (火)

『ロバのスーコと旅をする』を読む

著者は職を辞し、ロバと一緒に、
 イラン国内を  ’22/3/ 4 ~ ’22/ 4/12  800キロ
 トルコ国内を  ’22/5/18 ~ ’22/ 7/23 1200キロ
 モロッコ国内を ’22/9/ 4 ~ ’22/12/27 1500キロ
を歩く。

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こんな飯屋で読み始め。

著者は、
「ロバが旅に出たところで馬になって帰ってくるわけではない」
という西洋のことわざを出す。
「本質は簡単に変わるものでない」
という意味だが 実際にロバと旅した著者は、半分は正しいが、半分は間違っていると書く。

ところで、著者自身はどうか。
ロバのままで帰国するのか。
それとも、馬となって帰国するのか。

以下は、全然 別な話。

馬をひき、徒歩での4ヶ月の旅。
ドイツからスイスを経由してアルプスを越え、イタリアまで。
旅人は、Dietmar Obertとその妻Midori。(注)
馬の名はGina。

旅の終わり。
自分は馬に変わっているのか、ロバのままなのか。
ンなことはどうでもいい・・・
そんな素晴らしい旅の動画は4分11秒。



(注)
Midoriとは終日(ひねもす)船長さんの娘さん。

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2023年8月13日 (日)

『読むクラシック』を読む

私、歌うことも演奏することもダメ。
しかし、聴くのは何でも。
ポップスでも浪曲でも。
メールの着信音も、カトリックの典礼聖歌も。
英国軍楽隊のバグパイプの行進曲も、2000メートルの高所に設営したテントのフライシートを叩く雨の音も。
曹洞宗の僧の読経も、アーニスのホールでの中学生の吹奏楽曲も。

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こんな飯屋で読み始め。

話題となるのは、スメタナの『わが祖国(モルダウ)』から、メシタンの『世の終わりのための四重奏曲』まで46作品。
その46曲が流れるのは、
 ときに、焼き鳥屋
 ときに、真冬のオスロ
 ときに、勤め先の工場
 ときに、コペンハーゲンのタクシーの中
 ときに、仙台の自宅

本夕、読了。

中学校の同級生の一人がクラシックを聴く男。
何度か彼の部屋に上がってレコードを聴かせてもらったことがある。
が、そこはそれ、私のこと。
レコードを聴くことよりも、彼の持つ音楽のウンチク話を聞くのが面白かった。

本書の読み進めは、
 耳は、youtubeで音源を拾いながら
 目は、中学の同級生から話を聞くノリで

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