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2023年7月

2023年7月30日 (日)

『帰艦セズ』を読む

著者は吉村昭(1927年-2006年)。
私は、以前に、このヒトの遺稿集を読み、拙ブログに  『死顔』を読む  という記事にしている。

『帰艦セズ』の〝艦〟とは、帝国海軍の巡洋艦 阿武隈(あぶくま)。

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こんな喫茶店で読み始め。

阿武隈がフィリピンのネグロス島沖で米軍との戦闘のすえに沈没させられたのは、1944年10月。
その2ヶ月前。
小樽港に停泊中の阿武隈から上陸した機関兵が行方不明になり、のち死亡しているのが確認される。
『帰艦セズ』は その史実を下敷きに、創作を上塗りした作品。

著者は、もう一人、軍隊から脱走した経験を持つ人物を創作する。

本夕、読了。

著者が創作した人物は、軍隊を脱走後、北海道でタコ部屋作業員として生き延びる。
戦後は東京都下の市の公務員になり、定年まで勤めあげる。
そして、話の本題はそこから。

阿武隈に帰艦しなかった機関兵の遺族(母親・妹)、機関兵の上官に、定年退職した公務員は たどり着く。
著者に地方公務員に就いた職歴はないが、記録文学者としての自身をこの定年退職した地方公務員に重ねているのは明らか。

描かれているのは、著者自身である。

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2023年7月25日 (火)

『政治家の酒癖』を読む

米国大統領は、初代のジョージ・ワシントンから現職のジョー・バイデンまでで46代45人。
内、米国史上ただ一人 任期途中に辞任した大統領は、第37代のリチャード・ニクソン。
 ベトナム戦争からの全面撤退
 ソ連との緊張緩和(デタント)
 中国への電撃訪問
 ドルの金交換停止・ドル切り下げ(ニクソンショック)
などと、歴史的トピックスをニクソン政権は成しているが、キッシンジャーなど、側近が優秀だったから。

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こんな喫茶店で読み始め。

本書はニクソンを、
 シラフの時から「狂人」ぶりをいかんなく発揮していたが、
 酒が入ると手のつけようがなかった。
 泥酔し、無謀とも言える攻撃命令を出すことも少なくなかっ
 た。
と、評している。

ニクソン政権時の1969年4月。
31人乗り組みの米国の電子偵察機が北朝鮮に近い日本海で撃墜されている。
撃墜したのは、北朝鮮の2機の戦闘機。
で、ニクソンが軍制服組トップの統合参謀本部議長に命じたのは、北朝鮮への核爆弾の投下。

本夕、読了。

大統領補佐官だったキッシンジャーが統合参謀本部議長に連絡したのは、
 大統領は酒に酔っている。
 明日の朝まで待て。

ところで、バイデン大統領は、酒を飲まない。
プーチン大統領も飲まない。
習主席も飲まない。
菅前首相も飲まない。

現首相の岸田さんは、酒豪であることをウリにしている。

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2023年7月17日 (月)

『就職先は海上自衛隊』を読む

海上自衛官の3尉(初級幹部)への任官は、防大なり一般大なりを卒業後に広島の江田島にある幹部候補生学校での1年間の教育を終えた時点。
なお、さらにその後、実習幹部としての訓練を5ヶ月の遠洋練習航海で受ける。

〝かしま〟は、初めて女性自衛官の乗艦を可能とした練習艦。
この〝かしま〟の就役前は、女性自衛官は遠洋練習航海に参加できなかった。

127名の男性実習幹部とともに、〝かしま〟に実習幹部として乗艦して海自初の遠洋練習航海に出た女性自衛官は13名。
その13名の内のひとりだったのが、本書著者。
新造艦〝かしま〟が就役した1995年のことで、防大が初の女性卒業生を出す前の年。

著者は、一般大学文学部出身者。

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こんな喫茶店で読み始め。

本著者乗艦時の遠洋練習航海の航路は、西回りの世界一周。
 総航程 28000海里(52000km)
 総日数 157日
  航海 107日
  停泊  50日
寄港10ヶ国と12回の寄港は以下の順。
 シンガポール(シンガポール)
 ムンバイ(インド)
 アレキサンドリア(エジプト)
 イスタンブール(トルコ)
 ナポリ(イタリア)
 ルアーブル(フランス)
 ハンブルク(ドイツ)
 リスボン(ポルトガル)
 ノーフォーク(米国:バージニア州)
 バルポア(パナマ)
 サンディエゴ(米国:カリフォルニア州)
 パールハーバー(米国:ハワイ州)

・発光信号(光の長短で表したモールス信号)
・手旗信号
・旗旒(きりゅう)信号(国際信号旗の組み合わせ)
の三つの視覚信号の(発信能力はともかく)受信は、幹部自衛官に求められる能力。
幹部候補生学校で訓練され練習航海中も訓練されるが、この視覚信号の受診能力差が大きいことが大西洋航海中に問題視される。
で、リスボン入港直後に査定を行い、基準に達しない者は上陸禁止にするとの通達が出される。

著者は、能力差が大きく低い一人。
が、特訓、追試の結果、ユーラシア大陸最西端の地に立つことがかなう。

本夕、読了。

練習艦といえど、自衛艦は軍艦。
ゆえに、外国の港に接岸時においても大使館と同じ治外法権。
自衛官にパスポートは求められない。

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今日の室蘭港。
中央埠頭に接岸した日本丸。
本船訓練後に受験できるのは、3級海技士・機関士。

〝かしま〟での遠洋練習航海後に受験できるのは、2級海技士・機関士。(注)
まだ1年半しか経っていないが、すでに海上自衛隊に就職した身。
2級海技士・機関士試験に落ちるわけにいかない。
訓練は厳しい。

著者の遠洋練習航海において、インド洋を夜間航海中に実習幹部の1名が行方不明になっている。

(注)
漁船・商船に関わる海技士・機関士と自衛艦に関わる海技士・機関士試験は、厳密に一致しているわけではない。

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2023年7月10日 (月)

『職業外伝』を読む

AI、DX、ビッグデータ解析。
自動化、複合化。
等々の語を枕ことばに、この先10年、30年の内になくなる職業のことが言われる。
いやいや すでに 仕事がなくなり始めている。
セルフレジは珍しくない。
NHKでは、AIアナがニュースを読む。

そして、必ず言われる。
残るのは、
 コミュニケーションを必要とする仕事
 創造性が必要な仕事
だと。

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こんな飯屋で読み始め。

菓子職人が、チョコやクリームで造形する。
それは、パティシエの技、芸の具現。
本書に書かれているのは、そんなマットウな職人ではない。

マットウな芸術家コースを歩んでいたヒト。
在籍していたのは東京芸大の彫刻科。
が、3年で中退する。

素材はアメ。
シャベクリで客を集める。
シャベリながら、アメで造形し日銭を稼ぐ香具師(やし)。

80℃に温めたアメを、こね・のばし・切り・着色し、客のリクエストにこたえ、何でも作る。
1個、500円から。

本夕、読了。

500円玉を握りしめた女の子が、彼に、
「オジサン、クモつくって。 お空の雲」
知的障害を持つ子だった。
思わず空を見上げて、
「オレもまだまだだなァ」
と。
今までで、一番うれしくて、一番悲しかった注文だったという。

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2023年7月 2日 (日)

『実戦・世界言語紀行』を読む

大阪 吹田の万博記念公園に、1977年に開館したのが国立民族学博物館。
その初代館長が、本著者の梅棹忠雄(うめさお ただお)。
館長就任から10年ほどのち64歳で著者は両眼とも失明するのだが、執筆意欲は衰えず。
著作数は むしろ失明後のほうが多い。
本書も、失明後の著書。

元々は、動物学を専攻した理学博士。
理学部在籍中から、興味の先はヒト。
それも生理学的興味ではなく、集団としてのヒト、文化的興味。

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こんな飯屋で読み始め。

書かれているのは、著者の民俗学的調査歴。
民俗学的調査だから、そのフィールドが東京やニューヨークであるはずがない。
都市から遠い奥地。
あるいは、言葉が入り混じる国境の地。

モンゴル・中国をスタートに、東南アジア、ヨーロッパ、南アメリカ、アフリカへと。
調査は、そこに住む民族の言葉の習得から始まる。
日本語で書かれた文法書も辞書もない言葉が使われている地に入ることもある。
それでも、現地に入ってから1ヶ月で、調査に不自由しない程度の会話ができるまでの現地語が身に付く。

本夕、読了。

〝現地語が身に付く〟と書いたが、もちろん受動的態度では現地語は身に付かない〟
1日にマスターする単語数は300。
語学に限らず、何事も集中力。
が、どれだけ集中しても、ダメなヒトはダメ。
オレのこと(^^;

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