チングルマ雑考 2
下の記事『チングルマ雑考 1』で、
〝チングルマとは不思議な名前だ〟
と書いた。
チングルマが〝稚児車〟から来ているということを最初に唱えたのは牧野富太郎のようだ。
『牧野日本植物図鑑初版(1940年)』には、
花が小さく花弁が輪状に配列<中略>稚児車(チゴグルマ)の転訛<中略>毛をつけた果実が放射状に出ているさまを子どもの玩具の風車にみたてたものともいふ。(原文はカタカナ表記)
とある。
日本最大(と言うことは世界最大)の日本語辞典の『日本国語大辞典(小学館)』は、その権威も最上位で、広辞苑の はるか格上。
格下の広辞苑にはチングルマの語源は記載されていないが、『日本国語大辞典』には、
和名は花が小さく花弁が輪状に配列<中略>稚児車(ちごぐるま)の転訛<中略>毛をつけた果実が放射状に出ているさまを子どもの玩具の風車にみたてたものともいう。
とあり、『牧野日本植物図鑑』の丸写し。
牧野富太郎の権威の大きさが分かる。
ところで、チングルマがおもちゃの風車に似ていると言うなら、実ではなく花のほう。
おもちゃの風車は4枚羽根。
しかし、チングルマの花弁は5枚。
であれば、〝チングルマ〟の名に ふさわしいのは大きな4枚のガクのシラネアオイとか、花弁が4枚のアブラナ科だろう。
話を戻す。
おもちゃの風車だという〝稚児車〟とは、いかなるモノなのか・・・
随分調べた。
ところが、〝稚児車〟、これが見つからない(^^;
もう一度、『日本国語大辞典』に当たってみる。
〝チングルマ〟の説明文中で〝稚児車〟に触れていながら、なんということ。
同辞典全20巻中に〝稚児車〟という単語は、この〝チングルマ〟の説明文中にただ ひとつあるのみ(^^;
日本最大の漢和辞典の『大漢和辞典(大修館)』にも〝稚児車〟という項目はない。
見つけられないはずだ・・・
〝稚児車〟を見たことのあるヒトはいないハズ(^^;
『植物和名の語源探究』を読んだ。
こんな喫茶店で読み始め。
本書の著者も〝チングルマ〟が〝稚児車〟から転訛したものだと信じて疑っていなかったようだ。
その著者が、〝稚児車〟を調べる。
著者が『牧野日本植物図鑑』と『日本国語大辞典』にあたったのは、私と同じ。
私は ここから先はほとんど前に進めなかったのだが、本書著者の調査意欲は旺盛。
結局、行き着いたのは、 〝稚児車〟という日本語はない ということ。
〝オキナグサ〟の富山県立山での呼び名が〝チグルマイ〟。
〝チングルマ〟の果実が〝チグルマイ〟の果実によく似る。
そこから、〝チングルマ〟へ変化したというのが本著者の結論。(注)
『日本国語大辞典』全20巻中にたった1回だけ出てくる〝稚児車〟が、Googleでは40万ヒットする。
ネットにあるのは引用に引用を重ねた拡散情報ばかり。
引用元の情報が正しければ問題はないのだが、Googleで40万ヒットする〝稚児車〟はすべてガセ(^^;
『牧野日本植物図鑑』の改訂版にあたる『牧野新日本植物図鑑(1961年)』では、
本種に果実の様子の似たオキナグサ(きんぽうげ科)の地方名であるチゴノマイのなまったものとする説が有力である
とあり、稚児車説を引っ込めている。
〝チングルマの語源が〝オキナグサ〟の地方名の〝チグルマイ〟・〝チゴノマイ〟にあるというところに落ち着きそうだ・・・
私は、しかし、この〝チグルマイ〟・〝チゴノマイ〟が〝チングルマ〟に転訛したという説に納得していない(^^;
今のところ、表に出して言えるほどの裏付けがないのだが、私なりの〝チングルマ〟語源説がある。
話は変わる。
アブラコは大変に引きのいいサカナ。
アイナメが標準和名。
鮎並(アユナミ)、あるいは鮎滑(アユナメ)を語源とすると言われる。
北海道で竿を出す者としては、この巷に流れているアイナメの語源が気にならないだろうか。
17世紀末期の書物『本朝食鑑』には、
鮎に似た形を持つことから〝鮎魚女(アイナメ)〟と名付けられた。
とあることが根拠とされることもある。
古い資料だからと、無批判にありがたがってはいけない。
これには大いに疑問に思うべきだろう。
アブラコと鮎のどこが似ていよう。
このアイナメの語源も随分調べたが、今のところ手がかり足がかりなし(^^;
(注)
チングルマの語源には、〝江戸時代の女児の髪型の唐子髷(からこまげ)からきた〟という説があるが、これは明らかにガセ。
文字として最初に見えるのは、1825年(文政8年)出版の『物品識名拾遺』のようで〝チンクルマ〟と記載されている。
コメント
「私なりの〝チングルマ〟語源説がある」、こんど教えてください(゚ー゚)。
投稿: 夫婦釣り | 2017年8月30日 (水) 10:15
夫婦釣りさん、こんにちは
この記事にコメントが付けてくれる人がいるとは意外でした。
駄文を読んで下さり、どうもありがとうございます。
北海道の山だと、ひと汗流せば見ることのできるチングルマですが、本州の山だと かなり高度を上げないと見ることができません。
なので、この花を見たということは、ひと汗、ふた汗、み汗を流したあとだということになります。
登山者がチングルマを特別に思う理由はそこなのでしょうね。
チングルマ、おかしな名前だと思いませんか。
私は、以前から、そう思っていました。
稚児車は実在しないというのは、私にも直感的に分かりました。
そこから先。
それを郷土玩具辞典・牧野富太郎の植物図鑑・植物和名の語源探究をチラチラ眺めて調べていたのですが、私の根気のなさ。
ずっと放り出していました。
26、27、28日と夏休みとし、26日は層雲峡で宿を取りました。
見つけたのが『SNACK BAR ちんぐるま』。
それがこの記事を書くきっかけになりました。
私なりのチングルマ語源説、ご披露できるところまで、いくといいなァ、っと。
投稿: KON-chan | 2017年8月30日 (水) 20:07