廃社にて II
この場所に何があったのかを知らないと、買い手がつかないまま放っておかれた住宅地跡にしか見えない。
3年前には、それと分かる廃社の痕跡があったのだが。
今や、木造部は完全に撤去され、基礎部も自然に埋もれつつある。
【画像:上】
向かって左側5mほどにここに通じる幅1m半もない小道、さらに左は断崖。
右側は道もない、そして崖。
この上に1軒、この下に3軒。
例祭の夜店など出ない神社だったに違いない。
ここに至る少し手前のほんの小さな草地で、私より1回りほど年かさの女性がヨモギを摘んでいた。
「何かあるのですか」と、ご婦人。
「いえ、ガラクタを見に」と私。
ある外国人に、餅つきを見せ、お茶を点てる。
以前にも、それをして喜ばれた、そのためにヨモギ摘みをしているのだと彼女。
「草餅があったほうがいいでしょう。着物を着ておもてなしをするの」
アクセントが都会的だ。
訊いてみると、やはり北海道の出ではなかった。
上で、彼女がヨモギを摘んでいるのは「ほんの小さな草地」だと書いた。
女の手でも5分か10分もあれば摘みきってしまう、ほんの小さな草地だ。
もう摘むべきヨモギは無いに等しい。
だからか、彼女の話は ほかに広がり出した。
「上に1軒」とも書いた。
その1軒が喫茶店。
もう少し話が聞きたい。
私は彼女をお茶に誘った。
【画像:下】
若い頃の私は、女の子をお茶に誘う術(すべ)を随分 研究した。
しかし、ご婦人をお茶に誘う術の研究は怠っていた(^^;
「長いことお引き留めしました。 私の話はあなたを退屈にさせるだけね。 失礼します」
また、ガスが濃くなりだした。
もうじき、日が落ちる。
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